――富山中部自動車学校が選んだ“安心”という価値


① 一番苦しかった時期

――「続けるべきか、やめるべきか」と向き合った日々

振り返ってみると、最も苦しかった時期は、経営を引き継いでから3年目の頃でした。
入校生の数が想定を大きく下回り、前年対比で約20%減。固定費は変わらずかかる中で、資金繰りの見通しは決して楽観できる状況ではありませんでした。

数字以上に重たかったのは、「このままで本当に大丈夫なのか」という精神的な不安でした。

朝はいつも通り校内を回り、笑顔で職員に声をかける。
しかし事務所に戻れば、資金表と向き合いながら、頭の中では最悪のケースも想定していました。

「自分の判断は間違っていたのではないか」
「もっと別のやり方があったのではないか」

経営者としての責任と孤独を、初めて真正面から感じた時期でもあります。

当時の一番の壁は、“人を守りながら変える”ということでした。

経営が厳しくなると、まず削減を考えたくなるのは人件費です。しかし、それは長年この学校を支えてきた職員の生活に直結します。

数字を守るのか。
人を守るのか。

その間で揺れ続ける日々でした。

そしてもう一つの壁は、「自動車学校という業態の将来性」への不安でした。

少子化が進み、若者の車離れも叫ばれる中で、“ただ免許を取らせる場所”のままでは選ばれ続けないのではないか。そう感じながらも、具体的な突破口が見えない。それが何より苦しかったのです。

しかし今振り返ると、あの時間こそが経営者としての土台をつくった期間だったと感じています。

苦しい状況の中で、自分は何を守りたいのか。
この学校の存在価値はどこにあるのか。

それを何度も問い直したことが、現在の経営方針につながっています。


② 困難をどう乗り越えたのか

――「削る経営」から「磨く経営」へ

苦しい状況の中で、最初に考えたのは「何を削るか」でした。

広告費を減らすか、設備投資を止めるか。固定費をどう抑えるかという発想ばかりが先に立っていました。

しかし、あるときふと立ち止まりました。

「本当にやるべきことは“削る”ことなのか」

数字を守るために縮こまるのではなく、選ばれる理由を増やすことこそが必要なのではないかと考え始めました。

そこで方向転換を決意します。

発想を“守り”から“磨き”へ。

まず取り組んだのは、教習の質の見直しでした。

指導員との面談を重ね、教習生が不安に感じている点を徹底的に洗い出しました。

「緊張して質問できない」
「指導員によって言うことが違うと感じる」

そうした声を受け、指導方針の共有を徹底し、担当制の強化や振り返りミーティングの回数を増やしました。

さらに設備面でも小さな改善を積み重ねました。
シミュレーターの活用を見直し、ドライブレコーダーの映像を使った振り返り指導を強化。

“なんとなくの指導”ではなく、“納得できる指導”へと変えていったのです。

この時期に支えになったのは、ある先輩経営者の言葉でした。

「苦しい時ほど、本質を磨け」

売上が落ちると、つい派手な施策に目が向きます。しかし、選ばれ続ける企業は、地道に価値を磨き続けている。

その言葉が腹に落ちたとき、迷いが少しずつ消えていきました。

もう一つ大きかったのは、職員との対話です。

経営が厳しい状況を隠さず共有しました。不安も本音も伝えました。

すると、想像以上に前向きな言葉が返ってきたのです。

「この学校を良くしたい」
「自分たちにできることをやりましょう」

その瞬間、私は一人ではないと実感しました。

数字だけを追いかける経営から、“人と価値を磨く経営”へ。

時間はかかりましたが、少しずつ入校生は戻り、紹介で来てくださる方も増えていきました。

あの時、削るのではなく磨くと決めたこと。それが今につながる最初の転機だったと感じています。


③ 経営者として最初に大きく失敗した経験

――「良かれと思った判断」の落とし穴

経営者になって間もない頃、私は「効率化」に強くこだわっていました。

少しでも無駄をなくし、生産性を上げることが、経営を安定させる近道だと考えていたのです。

その一環として、教習スケジュールの組み方を大きく変更しました。稼働率を上げるため、できるだけ空き時間を減らし、回転率を高める設計に切り替えたのです。

数字上は理にかなっていました。理論上は売上も上がるはずでした。

しかし、結果は思うようにいきませんでした。

教習生からは、

「予約が取りづらい」
「急かされているように感じる」

という声が上がり、指導員からも「余裕がなくなった」という意見が出始めました。

私はそこで初めて気づきました。

効率を優先するあまり、“安心”を削ってしまっていたのです。

自動車学校に通う多くの方は、運転に不安を抱えています。その不安を和らげるためには、余白や対話の時間が必要です。

数字は改善しても、満足度が下がれば意味がない。

当時の私は、経営者として“正しい計算”をしていたつもりでした。しかし、“大切な価値”を見落としていました。

あの失敗が、経営における大きな転換点となりました。


④ 失敗から得た、今も大切にしている学び

――「数字の前に、人を見る」

あの失敗から得た最大の学びは、「数字の前に、人を見る」ということでした。

経営において数字は重要です。売上、稼働率、利益率――どれも判断の基準になります。

しかし数字は“結果”であって、“原因”ではない。

教習生の満足度が下がれば、紹介は減ります。指導員の余裕がなくなれば、指導の質も落ちます。結果として数字も必ず落ちていきます。

つまり、数字を上げたければ、まず人を整えることが先なのです。

それ以降、私は判断の順番を変えました。

「この施策は利益にどう影響するか?」ではなく、
「この施策は教習生や職員にとって本当に良いか?」を先に考える。

その問いを経て、初めて数字を検証するようにしています。

社内でもよく伝えている言葉があります。

「効率より、信頼を積み上げよう」

信頼は目に見えませんが、確実に積み上がります。そして一度築いた信頼は、数字以上の価値を持つと信じています。

失敗があったからこそ、この軸ができました。


⑤ ターニングポイントになった出来事

――「選ばれる理由」を言語化した瞬間

経営の流れが大きく変わったと感じた出来事があります。

それは、ある卒業生の保護者の方からいただいた一通の手紙でした。

そこには、こう書かれていました。

「技術だけでなく、安心を教えていただきました」

その言葉に、私はハッとしました。

私たちはこれまで、「安全運転技術を教える学校」であることを前提に発信していました。設備や指導内容の質を説明することが中心でした。

しかし、その手紙は、私たちの価値は“技術”だけではないことを教えてくれました。

安心感、寄り添い、声かけ、雰囲気。

それらが積み重なって「通ってよかった」という感想につながっていたのです。

自動車学校は、免許を“取らせる場所”ではない。
運転の第一歩を“安心して踏み出せる場所”である。

その言語化ができたことが、大きな転機でした。

そこから発信の仕方も変わりました。指導員の想いや教習生の声を伝えるようになりました。

数字が急激に伸びたわけではありません。しかし、確実に変化を実感できました。

価値は、内側からだけでなく、外側から教えてもらうこともある。

あの一通の手紙が、富山自動車学校の軸を定めてくれたのです。

公式HP https://toyamachubu.com