――従業員8人・愛知県豊明市で学んだ、経営のリアル**
はじめに|なぜ、経営の話を発信しようと思ったのか
愛知県豊明市。名古屋市のベッドタウンとして知られ、決して大都市とは言えないこの街で、私たちは従業員8人の小さな建築会社を経営している。
日々手がけているのは、住宅工事や小規模な建築、リフォーム、修繕など、地域に根差した仕事ばかりだ。
正直に言えば、創業当初は「経営のノウハウを発信しよう」などとは微塵も考えていなかった。
目の前の工事をどう納めるか、資金繰りをどう回すか、人が辞めずに働いてくれる環境をどうつくるか——それだけで頭がいっぱいだった。
しかし、数年が経ち、少しずつ経営が安定してきた頃、ある気づきが生まれた。
自分たちが必死に試行錯誤してきたことは、これから起業する人や、同じように小規模経営で悩んでいる人の役に立つのではないか、ということだ。
この文章は、華やかな成功談ではない。
むしろ、失敗や遠回り、恥ずかしい判断ミスの連続である。
それでも、「現場でしか得られない経営のリアル」を、次世代の起業家に届けたい。
そんな思いから、筆を取った。
1. 技術があれば経営はできる、という大きな勘違い
建築業界ではよくある話だが、私たちも例外ではなかった。
現場経験があり、施工品質には自信がある。お客様からも「丁寧だね」「安心できる」と言っていただける。
だから、会社としてもうまくいくだろう——そう思っていた。
しかし、現実はまったく違った。
・売上はあるのに、なぜかお金が残らない
・忙しいのに、心はずっと不安定
・仕事はあるが、人を雇う決断ができない
今振り返れば当然だが、技術と経営はまったくの別物だった。
現場で良い仕事をする力と、会社を継続させる力は一致しない。
特に小規模な建築会社では、社長が
「職人であり、営業であり、経理であり、人事である」
という状態になりがちだ。
結果として、どれも中途半端になり、常に疲弊する。
このとき初めて、「経営は勉強しなければならないものだ」と痛感した。
2. 数字から逃げると、必ずツケを払う
創業初期、私たちは数字を見るのが苦手だった。
原価率、粗利、固定費、キャッシュフロー。言葉は知っていても、正直よく理解していなかった。
「忙しいから大丈夫」
「仕事が入っているから何とかなる」
そうやって、感覚だけで判断していた時期がある。
その結果、ある年の終わりに通帳を見て言葉を失った。
売上は過去最高なのに、手元にお金がほとんど残っていなかったのだ。
そこから、ようやく本気で数字と向き合い始めた。
・工事ごとの原価を細かく見る
・利益が出ていない仕事を把握する
・月次で資金の動きを確認する
地味で面倒な作業だが、数字は嘘をつかない。
むしろ、感情よりもはるかに正直だ。
「数字が苦手」は言い訳にならない。
経営者が数字を見ない会社は、いずれ必ず不安定になる。
この教訓は、今も強く胸に刻まれている。
3. 従業員8人だからこそ、人の問題は重い
大企業なら、一人が抜けても組織は回る。
しかし、従業員8人の会社では、一人ひとりの存在が極めて大きい。
実際、「この人がいなくなったら現場が回らない」という状況を、何度も経験した。
そして、人の問題はほぼ例外なく、コミュニケーション不足から起きていた。
・期待を言葉にしていなかった
・不満に気づきながら後回しにした
・社長の価値観を押し付けていた
当時は「仕事なんだから分かってくれるだろう」と思っていたが、それは完全に経営側の甘えだった。
少人数の会社ほど、理念・方針・役割を言語化することが重要になる。
飲み会や雑談ではなく、仕事としての対話が必要なのだ。
この気づきは、その後の採用や人材育成の考え方を大きく変えることになった。
4. 「全部自分でやる」経営は、会社を小さくする
創業当初、私たちは何でも自分でやっていた。
見積、現場管理、発注、クレーム対応、経理、掃除まで。
「任せるのが怖い」
「自分でやった方が早い」
一見、責任感が強いように見えるが、実はこれは会社の成長を止める思考だった。
あるとき、思い切って現場の一部を社員に任せた。
当然、最初はミスもあったし、正直イライラしたこともある。
しかし時間が経つにつれ、ある変化に気づいた。
自分が手を離した分、経営全体を見る余裕が生まれたのだ。
・どんな仕事を受けるべきか
・この会社はどこへ向かうのか
・5年後、10年後にどうありたいのか
経営者の仕事は「現場をこなすこと」ではなく、「未来を考えること」。
その本質を、ようやく理解できた瞬間だった。
5. 地方・小規模だからこそ、発信には価値がある
「こんな小さな会社が、発信して意味があるのか」
これは今でも自問する問いだ。
しかし、実際に経営者同士で話すと、同じような悩みを抱えている人は驚くほど多い。
特に地方では、孤独に経営している人が多い。
派手な成功事例よりも、
・失敗した話
・うまくいかなかった判断
・何度も悩んだ末の選択
こうしたリアルな話のほうが、よほど参考になる。
私たちが発信したいのは、「特別な成功」ではない。
現場で悩み、考え、少しずつ前に進んできた記録だ。
それこそが、同じ立場の誰かの力になると信じている。
おわりに|次世代の起業家へ伝えたいこと
もし、これから起業しようとしている人がこの文章を読んでいるなら、伝えたいことは一つだけだ。
完璧な準備が整う日は来ない。だからこそ、学び続ける覚悟が必要だ。
経営は、教科書通りには進まない。
正解も一つではない。
それでも、現場で考え、失敗し、修正し続ければ、会社は少しずつ形になっていく。
豊明市の小さな建築会社でも、ここまで来ることができた。
この発信が、誰かの背中を少しでも押すことができたなら、
これ以上うれしいことはない。




